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《おはなしというものは、
たからもののようにたのしいものであります。
よむ人にもたからでありますが、
かくわたしからいえば、
たからものをわけるようなこころもちであります。
昭和十六年はる
犀星》
──本文5頁より
犀星がのこした「たからもの」のようなお話を、9編を収めた本書。
幻想や儚さが流れる作品もあれば、わくわくするような活劇のような作品も並びますが、通底するのは小さなものへの慈愛や理解、かけがえのないあの頃への想いと切実。
編者である室生洲々子さんは、あとがきも書かれており、
ご自身の本との出会いを綴られたうえで、まさに幼き頃や小さき者への情感を犀星文学に見ると述べられています。
以下、収録作品をほんの少しご紹介。
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・「オランダとけいと が」
越冬したい一匹の蛾と、互いに助け合うことを提案し行うオランダ時計。
そして、慈悲深い一家の人たち。
「越冬」にはやさしさが要るのかもしれないと思ってしまう作品です。
・「ねずみの兄弟」
ある農家の家に住まう5人の兄弟ねずみたち。一番上の賢いネズ太郎の綿密な企てにより、農家に蓄えられた「ご馳走」にありつけるのか──。
・「山の動物」
みなをいじめる「のらねこかんべえ」一味に、山の動物たちが協力して対抗する動物活劇。
ボスである「かんべえ」が猫なのに対して、味方陣営で鍵になるのも猫たち、というところに犀星のこの生きものへの想いがうかがえます。
ところどころ生きものの子どもたちが話す言葉もかわいいうえ、挿絵もばっちりかわいい。
・「山の犬の話」
山の中で生まれ育った日本犬、チイ公。
東京で暮らす「わたし」が引き取るも、やはり故郷の自然を愛すチイ公は、あるとき姿を消し──。
犬のもつまっすぐな気持ちと、それを悟るひとの優しい想いがわずか数頁に詰まった随筆のような作品。
・「龍の笛」
ある中国の王さまが月夜になると、きまって吹く笛。そして龍の啼くような音。
町の人たちは龍が啼いていると想ううえ、どこかもの悲しげな響きをするので、心配が募るばかり。そこで、ある術使いがまじないをしたところ──。
簡潔なストーリーながら、美しく幻想的な風景や余韻が広がるお話。
・「次王丸と縫姫」
生き別れすることになった兄・次王丸と妹・縫姫。妹は京へ連れてゆかれ、兄は山里の富家で子守をさせられに。
いく日もいく日も妹のことを想うけれど、会えないどころか所在も分からず落ち込む次王丸は、富家の娘である時姫の子守をして過ごしていました。
そうして、そばでそっと励ますように笹舟を作り川へ流す時姫。その祈りのゆくえは──。
切なくも、希みをそっと置いてゆく儚いお話。
・「きゃべつのおじさん」
にんじんとだいこん。見た目の異なりで喧嘩するふたりを取り持つ「きゃべつのおじさん」。
おじさんが籠の中で互いの本質を教えたところ、ふたりは──。「ちがい」と共存を、わずか2ページで想わせる寓話のようなお話。
・「二人のおばさん」
良平が子どものころ、よくしてくれた「二人のおばさん」。
「話しぶりもやさしく、子どものいやがるようなことをいわない」高田のおばさんと、「行きさえすれば、いやな顔も、また特別に歓迎してくれたわけでもなかった」近所の、さしもの屋のおばさん(と、おじさん)。
仰々しいやさしさではなく、そっと自然に感じられる温かさをもったやさしさ。
いつのまに大人になって遠のいてしまうけれど記憶に残るやさしさがほんのり漂う、随筆のようなお話。
・「こおろぎの話」
昔の中国にて毎秋になると、強いこおろぎを宮中へ献上し闘わせることがあったという「こおろぎの話」。
ある村の貧しい長「ちえん」は、こおろぎを必死に探し続けるもなかなか見つけられず、死すらよぎって困り果てます。
妻も一緒になり探し、しまいに苦肉の策を講じ一時の幸が不幸を招き、子ども含む一家はどうなるのか──?
あくまで謙虚で清潔な心が、物質的欲望のぎらつく俗世に反射し映ずる、幻想と希みが流れている物語。
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また、刺繍と挿画を手がけられたのは、グレゴリ青山さん。
かわいい画が随所に登場するたび、思わず撫ぜたくなってしまいます。
見返しは金を施したような用紙、本文は赤と黒の2色刷り。(添付写真ご参照)
文庫本のようなサイズも、とてもかわいい。
なお、室生朝子編『室生犀星童話全集』(全3巻、創林社、1978年)を底本として編まれました。
《祖父の童話には、幼い頃の気持ちや小さい生命に対する想いが溢れている。》
──室生洲々子「あとがき」本文201頁より
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著者:室生犀星
編者・あとがき:室生洲々子
刺繍・挿画:グレゴリ青山
出版社:龜鳴屋
発行年:2023年7月7日 初版
状態:並製本、113mm×153mm、208頁、2色刷り、新本のため新品